読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

#12

ストーリー

「此処が鍾乳洞の入口……。案外分かりやすい所にありましたね」
 城の最上階、玉座の間らしき部屋の突き当たりに、探している扉はあった。そこに玉座はなく、代わりに、数センチ開いた扉が僕達をいざなう。
「このドアの向こうが鍾乳洞なんだね……この光が漏れてるのって、もしかして……」
「中、入ってみようか」
 ドアの軋む音が部屋全体に鳴り響く。……何かが此方へ向かって押し寄せてくる。徐々にそれは近づいてきて……
 「きゃあ‼ な、何今の!?」
 向こう側から途端に放たれたのは、蝙蝠の群れだった。騒がしさも束の間、辺りはまた無一色で染まった。セナは全くの無反応で、催促するように扉の向こうに耳を立てる仕草を始めた。
「……行こうよ」
「うん、そうだね」
 鍾乳洞の中はひんやりと冷たく、時折背中を通り過ぎる寒風に不気味な印象を受ける。更に奥へと進んでいくと、風光明媚な結晶が、地面、天井、壁……四方八方からその輝きを主張していた。一体、どれがエンゲイジリングの材料となるジェムなのだろうか。
「こ、この赤色は、るびーじゃないかな‼︎ あの青いのは、さふぁいあで……あっちは、とぱーず‼︎ はわあ……全部採っていきたい……いいかな⁉︎ いいよね⁉︎」
「好きなだけ採るといいです。……砕ければ、の話ですが……」
 ベンティスカはレイセン君の許可をもらうや否や、目玉を星に変えて宝石狩りに出かけて行った。
「私達はジェムを探しに行きますよ……。この辺りにないのなら、もっと奥へ進むしかありませんね」
「透明……なんだよね?」
「ええ、残り滓でもあれば良いんですけれど……」
 不吉な予感を覚えながらも、透明な結晶を求めて僕達は歩き続けた。
 同じ景色に飽き始めた頃、鍾乳洞の行き止まりに差し掛かる。
「あ……これ、透明だ‼︎ もしかして、これがジェム⁈」
「もしかしなくてもジェムですよ。……まだこんなにあるとは、思っていませんでした」
 道幅よりも僅かに広い部屋で足を止めた。壁一面に咲いた結晶は、透き通った水のように透明で、触れても腕が通り抜けてしまいそうだ。
 レイセン君曰く、昔ジェムが大量に流通していた時代があり、もう殆ど残っていないだろうという予測だった。そんな推測を裏切るように、素材として消費しても有り余る程、数多くのジェムが此処には眠っていた。
「じゃあ、僕とセナはあっちで採ってくるよ‼︎」
「わかりました」
 二手に分かれてジェムの回収に取り掛かる。
 セナは疲弊しているのか、先程から黙り込んでしまっている。
「セナ、今だけ包丁と杖、交換しよう?」
「うん……いいよ……はい」
「ありがとう。僕が採るから、セナは座って待ってて」
「わかったあ……」
 セナは瞼を擦って壁伝いに歩いた後、僕の杖を抱きしめた姿勢で座り込んだ。僕はそれを確認した後、交換した包丁を握りしめてジェムを採掘する。
 鉱石と言うわりには脆く、包丁を一振りしただけで根元の部分から崩れ落ちてしまった。……もうこれだけあれば十分ではないだろうか。
レイセン君……なんか一回振っただけでものすごい量採れたよー。もういいんじゃないかなー」
「そうですね、今そちらに行きます」
 レイセン君は鉱石を入れるための袋を肩に下げ、居眠りをしているセナを睥睨しつつ僕の元へとやって来た。
「多分、疲れちゃったんだよ……ここまで結構長かったし」
「いいんです、それは……背負って帰ってくださいね」
「え、僕!?」
「当然です。貴方が連れてきたんですよ、責任は取ってください……私はこれを集めてますから、どうぞ起こしてきてください」
「はあ……わかったよ……。セナ、帰ろう。もう終わったよ」
 セナの肩を揺すって反応を待つと、少し間を置いて、うーんと呻った後不機嫌そうな顔で欠伸をした。僕はおぶって帰ろうかと提案したが、大丈夫と言ってまた僕の手を握った。

「一体、ベンティスカはどこまで宝石を探しに行ったんですか……」
「あ、来たみたいだよ。足音が」
「本当だ。なんかすごい抱えてるけど……」
 向こうから笑顔で走ってくるドレスの女性は、その両腕一杯に宝石を抱えて、僕達の名前を叫んだ。
「ふふ……見て見て‼ こんなに沢山‼」
「わ……すごい……」
 多彩な石を満足げに見つめるベンティスカは、どこに仕舞おうかと悩んでいた。所持していた小物入れにもはち切れんばかりに入れたという。ため息をついたレイセン君が、肩にかけていた袋の口を開け、そこに入れる様に促した。
「さあ、港町に戻りましょう。これからが肝心です」
「そうだね……グレイ……もうすぐ直すから、待ってて」
「ねえアクアさん、帰ったら何するの?」
「僕達で指輪が作れるかどうか、試すんだって」
「ボクにもちょうだい?」
「あ……まだ、できるかどうかわからないよ?」
 それを聞いて残念そうに頬を膨らませたセナに、僕は申し訳なく苦笑する。

 城の出口はすぐそこまで迫っていた。……しかし、僕達がこの城を去る為には、目前で阻む敵を倒してからになりそうだ。
 犬に似た作りをした獣の群れが二足歩行で立ち塞がる。身体の節々は焼け爛れ、骨が浮かび上がっていた。……よく見ると、その骨は犬ではない――人骨。城を、王を守らんと部外者を排除する兵士達の意志なのだろうか。腕にはサーベルと盾を持ち、獣独特の呻き声を上げ、僕達を威嚇している。
「いつの間に……兵隊さん、こんなに敵がいるけど、どうする?」
「全て相手をする必要はありません。私が道を開けます、ベンティスカは念の為後ろを」
「わかった‼ 小人さんもお願いね」
 セナはこくりと頷くと、僕の手を放し、両手で包丁を力強く握った。
「ご主人様‼」
「わっ‼ ……とと」
「それお願いしますよ、道が開けたらすぐに走ってください」
 レイセン君は鉱石の入った袋を僕に向かって投げた。落とす一歩手前でなんとか袋の端を掴んだ。……重たい。
「雑魚ほど群れたがるものです。……はぁ‼」
 先陣を切ったレイセン君は力に任せ鉈剣を振り払った。前列の獣達が後ろへ弾き飛び、衝撃波となってドミノ倒しの如く崩れていった。
「ガアアアアオオオオオオ――‼‼」
「魔法使いさん上‼」
 頭上から何かが降ってくる――獣だ。牙を剥いて剣を突き出している。僕は反射的にしゃがみ込んだ。――が、いつまで経っても攻撃されず、代わりに顔を上げた直後鮮血を浴びた。――セナが飛びかかって獣を一突きしたのだ。
「行こう、今なら出口に行ける」
「うん、ありがとうセナ‼」
 セナが横から迫ってくる敵を薙ぎ倒し、その後ろを僕が追いかける。遅れてベンティスカが出口を潜ると、最後にレイセン君が扉を閉めた……かと思いきや、諦めず部外者を追跡しようとする獣たちの方へと踏み倒した。
 扉の先は洞窟だ。遁走するにつれ視界は暗くなっていく。僕は抱えた袋の重いのを気にせず走り続けた。

 ……次第に外の光が見え始め、背後からは凄まじい轟音と地震にも似た揺れが響いた。暖かく柔らかな夕日が、僕達の帰りを待っていたかのように迎えてくれた。
 全員が洞窟を抜け出すと同時に、砂煙が巻き起こった。
「はぁ……はぁ……この砂煙は……」
「無事でしたか、ご主人様。申し訳ありません。足止めをしようと辺りの岩を崩していたら、洞窟ごと破壊してしまったようで……」
「で、でも……これであの怪物が来ることもない……よね?」
「今頃、岩雪崩に押し潰されて全滅でしょう……まあ、この状況では此方側に来ることさえ困難です」
「それもそうだね……はああぁぁ……びっくりした」
「さあ、帰りますよ……。……あれは」
 レイセン君が帰路を凝視した。座り込んだ僕もえいやと立ち上がり、そこに視線を移す。

 少し距離を置いた所で、執事服の青年が、僕達に向かってお辞儀をした姿勢で立っていた。青年は顔を上げると、優しく微笑んで見せた。
「初めまして。皆さん、随分汚れが目立ちますが……」
「まさか……貴方の仕業ではないでしょうね? それと、先ずは名を名乗るのが礼儀ではありませんか?」
「おやおや、何の話でしょう……? 名乗る程の者ではありません、フフ」
 最後の含んだような笑みを見て、この青年の印象が逆転した。妖艶な雰囲気を纏った彼は、ゆっくりと僕達の方へと歩を進める。
 ……人なのに、どこか違う。そんな気がしてならないのは僕だけではない。レイセン君もまた警戒し、剣を下しはしなかった。
「……何もしませんよ。僕は貴方達に、これを渡したかっただけです」
 青年は顔をしかめて懐から数枚の紙切れを出すと、レイセン君に手渡した。
「これは……」
「三日後に王国フォシルで行われる舞踏会への招待状ですよ。……これがないと、城に入ることすら許されません。……ああ、ちゃんと皆さんの分もありますよ」
「何故、私達に?」
「フフ……運命の悪戯、といったところでしょうか」
 ……益々怪しく見えてきた。青年は首を傾げ、何か可笑しなことでも言ったか、という表情だった。……一瞬、僕と目が合った。やはり彼は目を細めて笑っていた。
「では、僕はこれで失礼致します。……舞踏会、お待ちしています」
 青年は出会った時と同じように礼をした後、薄暗くなった灰色の帰り道に消えていった。

「……で、どうしますか? ベンティスカ」
「もちろん行く‼ ……え? どうして、わたしに聞いたの?」
「こういう事に興味がありそうだったので。……まあ何にせよ、海を渡る理由ができました」
 確かに、派手好きのベンティスカの意向を聞くのは正解だ。彼女は誰が反対しても、きっと一人でそこまで行ってしまうだろう。ここ最近で把握できたベンティスカの趣味を繋ぎ合わせ、此処にこじつけてしまっていた事に、僕はつい苦笑いをしてしまう。
「では、帰りましょうか。王国へ行くには、早朝の船に乗るしかありません」
「ええ……起きれるかなぁ……」
「アクアさんは、ボクが起こしてあげるよ」
「ところで兵隊さん、指輪は? 宿に着いたらできる?」
「ええ。それに、どこかで型になりそうなものを探さなければ。あと、染色液も」
 ベンティスカは、歩き出したレイセン君を追いかけて、ジェムをどうやって加工するのか、エンゲイジングをどうやって作るのかを熱心に聞いていた。
 海を渡る――つまり、もう一度この島に戻ってくる可能性は低い。僕はふとレイセン君の言葉を思い出した。
  
――もう崩壊してしまいましたが、瓦礫の下敷きになっているのではないでしょうか……。

「……ねえ、セナ」
「どうしたのアクアさん、ボクの性別でもわかったの?」
「う、うーんと……その事じゃなくて……。……皆が寝た後、一緒に散歩しない?」
「え……? あ、アクアさんからそんな、お誘い、来るなんて……」
 セナはぽうと赤くなると、頬に両手を被せてうっとりしていた。……あの一言でセナの妄想がどこまで繰り広げられているのか、教えてもらいたいものだ。
「あ、あのね、そういうのじゃないんだけど……夜しか現れない館があって……ちょっとそこまで探し物に」
「うん、行く! 二人きりで……夜に……ふふふ」