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#20

夢見の少女 後篇 血で赤く染まったレバーの取っ手を睨みつけ、僕は歩く。 顔の外側からひりひりと痛みを与えてくる熱気を浴びながら、レイセン君の行動を眺めていた。 「…………」 一本道の曲がり角に差し掛かった所で、少しずつ前進していた影が止まる。 「ど…

#19

悪魔と呼ばれた人々の檻 屋内には窓一つなく、自然の光を受け付けない。じめっとした空気のせいで気分が悪い。扉が閉まると、真っ先に此処から出たいと思った。 「ベンティスカ――! 何処にいるの!?」 「聞こえる場所にいるのなら、苦労はしませんよ。見てくだ…

#18

夢見の少女 前篇 「ねえ二人共、ちょっといいかな」 ベンティスカが足を止めた。僕とレイセン君も立ち止まり、彼女を振り返る。 「どうかなさいましたか」 「大したことじゃないんだけど、二人に聞きたいことがあるの」 「――と、言うと?」 「舞踏会のとき、…

#17

ベンティスカ編 月明かりが、グラスに注がれたワインを照らす。ここにいるべきではないのは、わかっている。でも、わたしは舞踏会を楽しめる気分ではなかった。 「見せたかったな……このドレス」 ベランダには、わたしがひとり。静かすぎて、あれやこれやと考…

#16

開幕 夜も更けた。今夜は舞踏会には持って来いの、静かな晩。 僕とレイセン君、ノアの三人は身支度を済ませると舞踏会のホールへ向かう。僕達以外にも、招待された人々が寄り集まってワインを注いだり、会話をしたりとざわめいていた。 女性達は着付けや化粧…

#15

『エンゲイジリングとは、装備した者を死の概念から解放させる指輪の事である。また、本来の死から逃れる為の力を与えられる。但し、指輪を外したり、装備した者の肉体が破壊された時、只の人となる事を忘れてはならない。』 揺動する船の個室で、エンゲイジ…

#14

「あ、あれだ……。セナ! 見つけたよ‼︎」 「えーー? 見つけちゃったのー?」 「でも、ちょっと一人じゃ取り出せそうになくて……ここまで来てくれる?」 「……はーい……」 僅かな隙間から、至って平凡なタイトルの古ぼけた辞書を発見する。 本棚と思しき木片を無計画…

#13

驟雨の夜 貸切状態の宿屋の調理場。レイセン君とベンティスカはエプロンを身につけ、採ってきたジェムの砂埃を払った。それからフライパンと、適当に開いていた店で手に入れた型と、染色液を用意していた。……チョコレートでも作れそうな下準備だなあと、思わ…

#12

「此処が鍾乳洞の入口……。案外分かりやすい所にありましたね」 城の最上階、玉座の間らしき部屋の突き当たりに、探している扉はあった。そこに玉座はなく、代わりに、数センチ開いた扉が僕達を誘いざなう。 「このドアの向こうが鍾乳洞なんだね……この光が漏…

#11

宝石巡り 港町オレイアスに戻った僕達は、先日も宿泊した宿を借りて一息ついた。閉鎖は解除されており、街を出た時の張り詰めた空気は、跡形もなく消え去っていた。 「わーん! 怖かったよー、アクアさんー」 「あはは……よしよし」 「そうですね……明日の予定…

#10

危険な包丁 「本当にごめんなさい。わたし達、こんな所初めて来たから、つい……」 「ふーん……そうなんだ。じゃあ、ボクのお家で紅茶を飲んで、一緒に遊ぼうよ」 緑髪の子供は、首を傾げてにっこり笑うと、僕の腕を引っ張って家の中へと入っていった。 「うわ⁈…

#9

Forget-Me-Not 「グレイに謝るのは、明日の方が良いでしょう。今日はとことん頭を冷やしてください」 皮肉めいたそれを真に受ける気力もなく、僕は自分のベッドに倒れ込んだ。 「では、おやすみなさい」 僕が力のない返事をした頃、レイセン君はもう部屋を出…

#8

恋する黒猫 快晴の空の中を、カモメが泳ぐように舞っている。此処が、海の上に浮かぶ町――港町オレイアス。 「賑わってるねぇ。武器屋さんはどこだー? ベンティスカさん、一緒に探そうぜー‼」 「急がなくてもいいのに。ふふっ」 グレイがベンティスカの手を握…

#7

グレイの場合 俺はなんと不幸な男だろう。よりによって、自ら地雷を踏みに行くなんて。 「ここはどこだーー!! ……まあ俺が悪いんだけど、悪いんだけど……ぎゃああああぅ!!」 長くて長い渡り廊下をひたすらに歩いていると、何かが遠くで倒れたり、何かが落ちた…

#6

ダイスとスタンガン 「海だ! 海だ!」 「はぁ……、もう目的を忘れましたか。どうぞ飛び込んでください、置いていきますので」 ラブラドライト海岸に来るやいなや、海を見て大はしゃぎするグレイ。それを呆れて放置しようとするレイセン君。斯く言う僕も、初め…

#5

復讐の誓い 一人の少年が空を仰ぐ。命という名の灯火が徐々に光を失い、か細くなってゆく。 「ちくしょう……あんなの……かてるわけ……」 「グレイ、しっかり。今治してあげるから……」 レイセン君にそうしたように、グレイに掌を翳かざし、祈る。が……。 「嘘だ………

#4

誕生の朝 「……様? ……ご主人様?」 知れた呼び名を何処かで呼ぶ音吐が聞こえる。真上で照り返す蛍光灯が眩しくて、つい腕で目を覆った。 「お、気がついたみたいだな。へへ、驚いたぜ、果たし状を置き逃げするつもりがこんな事になってたなんてな」 「果たし…

#3

「お……驚かせてごめんね、えぇぇっとぉ……」「あぁ……こっちこそ驚きすぎて悪かったな、ハハ……」 彼は表情豊かなその顔で優しく笑ってみせた。 「名前……聞いてもいいかな?」「あぁ。俺はグレイだ、宜しくな」 彼は黒ずくめでフードのついた布を羽織っている。…

#2

冷酷な瞳 木漏れ日が、僕の目を開かせた。 「う、うーん。はっ!? 僕生きてる!?」 「やっと目を覚まされましたか……」 「……え?」 僕はここで、始めて他人の声というものを耳にした。 「いい加減、起きたらどうなんです?」 「ああ、はい。起きます……」 そう言…

#1

死の可能性 「ふぁ……ぁ……」 僕は目を覚ますと、思わず欠伸をする。それから無意識に目蓋を開いた。全く見覚えなどない、初めての全景。 瓦礫の山が、ただそこに留まっていた。 本当の色かさえもわからなくなった地べたに這いつく黒い塊の数々、水も出ること…

#0

プロローグ 僕はきっと、悪い夢を見ていたんだと思う。 悪辣な概念が、僕の愛しい子供達を愚弄した。 それは世界が狂い始めた数百年前から始まり、何度も同じことを繰り返した哀史の、何と無意味な結末だろうか。 嬉嬉とした笑みを浮かべる無垢な子供達はみ…